「忘年会」


気が付くと、12月も中旬に差し掛かり、
今年も残すところあとわずかになってしまいました。

忘年会シーズン真っ盛りで、街には大勢の人が顔を赤らめ上機嫌でたむろしています。

僕も忘年会の誘いをいくつかいただいております。

お酒は嫌いじゃない方なので、翌日の診療に支障をきたさないように
二日酔いに効く漢方薬を握りしめて忘年会の皆勤賞を狙っていきたいと思います(笑)。

 
 

僕には、忘年会の季節になると思い出す、ある変わったエピソードがあります。

これは、僕がまだ大学病院に勤めていた時代の忘年会の日の話です。

その日は、日中は曇っていたのですが、次第に天候が怪しくなり、
二次会が終わる頃には豪雨となってしまいました。

傘を持っていなかった僕は困りました。

二次会のバーから一番近いコンビニまでは全力で走ると30秒くらいなので、
びしょ濡れになるけれどもそうするしかないと思っていたのですが、
帰りのエレベーターを待っていると、その中からバーの店員さんが出てきました。

外で買い物をした帰りのようで、ビニール袋をぶら下げていました。

この店員さんとは顔見知りで、僕が手ぶらだったのを見て、
「先生、あまりきれいではありませんが良かったらこの傘使って下さい。」
と、ビニール傘を渡してくれました。

(僕)「いや、でも悪いですよ。」

(店員さん)「大丈夫ですよ。外はすごい雨ですから使って下さい。」

まさに『渡りに船』の心境で、一回だけしか断らずに喜んで傘をいただきました。

そして、家路に帰る途中、店の近くのコンビニ前を通り過ぎて、
「店員さんと会ってなかったら、ここまで走らなきゃならなかったんだなぁ。」
などと思いながら、優雅に(?)歩き去ったのですが、
しばらくして、後ろから何かを叫んでいる声が聞こえました。

そこは薄暗い通りで、その時そこには僕しかいません。

知り合いが呼んでいるのかと思い、振り返ってみると、
フタの開いた缶ビールを持った、見たことのないスーツ姿の若い男性が、
傘を持たずにびしょ濡れで、それでいて急ぐことなく千鳥足でむかってきました。

(男性)「おいお前、おれの傘とったろ?」

・・・? はじめ何を言っているのか分からないので、

(僕)「何をおっしゃってるんですか?」
    (注 : 実際はもう少し凄味があったかもしれません。)

と返したところ、

(男性)「この傘俺のだ。コンビニでビール買って帰ろうとした時に、
      遠くで俺の傘持って歩いてるお前を見かけたんだ。それを返せよ。」

僕も結構酔っていましたが、瞬時に、
さては、店員さんがコンビニに行って帰る時にこの傘を失敬して、
いらなくなったから僕にくれたのかもしれないな・・・と判断しました。

ですが、僕がこの傘を盗んだ訳ではないので、そういう事情を丁寧に話しました。

すると、彼は僕の話を全く信じてくれず、

(男性)「そんな店員の存在なんて怪しいもんだよ。お前嘘ついてんだろ。」

という具合です。 なので、

(僕)「よく考えてみてくださいませんか?もし僕が傘をコンビニで盗んだのなら、
     そこまでどうやって濡れずに行くことが出来るんでしょうか?」
    (注 : 実際はもう少し凄味があったかもしれません。)

しかし、彼は理解してくれません。

(男性)「そんなのしらねえよ、でもこの傘は俺んだよ。」の一点張りです。

正直、もうこれ以上彼と関わりたくなかったので、
濡れてもいいや(どうせはじめはその覚悟決めてたんだし・・・)と思い、

(僕)「じゃあ、この傘渡しますよ。僕はそこのコンビニで傘を買いますから。」
    (注 : 実際はもう少し凄味があったかもしれません。)

と申し出たのに、今度はそう言ったらそう言ったで、

(男性)「そうやって素直に応じるところを見ると、やっぱりお前が盗んだんだろ。」

と言う始末です。

いったい、どうしろというのか?

そもそも、彼は相当酔っているらしく、ろれつが回らないような状態なのに、
この薄暗い通りで、遠くから見てこの傘が自分の傘と判断できたのでしょうか?
(どこにでもあるビニール傘ですよ。)

それに、コンビニを出た瞬間に缶ビールのフタを開けて飲むという行為も、
僕を見つけても走る素振りをいっさい見せずに千鳥足で歩いてくるさまを見ても、
なにか腑に落ちません。

僕は、ただ単に酔っ払いにからまれているだけなのでしょうか?
傘を盗まれたというのは事実なのでしょうか?

そう考えると、僕もさすがに頭に来てしまい、
今からバーに引き返すのは、豪雨の中、酔っていたのですごく面倒だったのですが、

(僕)「そこまで言われるのなら、僕のいたバーに一緒に行ってもらえませんか?
     店員さんに僕が嘘を付いていないことを証明していただきましょう。」
    (注 : 実際はもう少し凄味があったかも・・・いや、大ありだったと思います。)

すると、その凄味に参ったのか、僕に絡むのに飽きたのか、
「じゃあいいよ、その傘やるよ。」と言って、
僕の進行方向と同じ方向を悠然と千鳥足のまま歩いて行きました。

結局何だったのか、今でも分かりません。

彼が本当に傘を盗まれたのか、
それとも、帰りの進行方向が一緒の僕にからみたかっただけなのか・・・。

でも、仮に彼の言っていることが事実だったとしても、僕は悪いのでしょうか?

登場人物を考えて下さい。

「 僕 ・ バーの店員 ・ スーツ姿の若い男性 ・ 傘 」

だれが一番悪くないですか?
                             ・・・・ 傘か。

 
2008/12/16更新


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