不眠症と漢方

不眠症の定義

日本人の4人に1人が不眠症と言われています。 誰もが一度は頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか?

不眠症は、睡眠障害の一種であり、平常時と比較して睡眠時間が短くなる結果、身体や精神に不調が現れる病気です。
具体的には、症状によって、

  1. 入眠障害
  2. 中途覚醒
  3. 早期覚醒
  4. 熟眠障害

と分類されますが、私の個人的見解では、これらを分類する意義はあまり無いように思われます。

不眠症の原因

原因としては、

  1. 「ガンや神経痛などの痛みや呼吸器疾患による息苦しさ、皮膚疾患による痒みなど肉体的な要因によるもの」
  2. 「抑うつや痴呆など精神神経疾患によるもの」

    といった、何らかの疾患が関係しているものや、

  3. 「アルコールやたばこ、甲状腺剤などの薬物によるもの」
  4. 「騒音、蒸し暑いなどの生活環境要因」
  5. 「ストレス、不安などの心理的要因」

などに分類されます。

「寝る」ってどういうこと?

我々の体は、起きているときは、細胞に酸素や栄養を与えたり活発に働き易い環境を維持したりするため、体温を36度前後に保つようにしています。
その反面、寝ているときは、体の代謝を抑えることで細胞の疲れを取るので、体温を下げて体の代謝を抑えようとします。

「アトピー性皮膚炎と漢方」の項でも記述しましたが、実は、体の中で一番温かいのは血液なんです。
血液が全身に隈なく巡ったり毛細血管に貯えられたり、また、血管を拡張したり収縮したりして、我々は体温をコントロールしています。

「寝る」ときは、(自律神経系の)副交感神経の命令で血管を拡張させて血流を良くすることで、血液を体のすべての部分で均一に冷やすことができるので、体温が下がり体の代謝が抑えられるのです。
つまり、体をぐっすり休ませるためには、早く、かつ、均一に体温を下げなければいけません。

「冷え性」の方や、気持ちが高ぶっている方(交感神経の働きが活発な方)は、手や足などの血液の循環が悪いです。
ということは、体の中で温かい部分があったり冷たい部分があったりというバラつきが生じます。
つまり、血液を体のすべての部分で均一に冷やすことが出来辛いので、なかなか寝付けないのです。

「寝る」ときに電気毛布などで体を温めていいの?

冬の寒い時、電気毛布などで布団を温めることがありますが、布団に入った瞬間とても気持ちがいいですよね。

これは、寒いところから暖かいところに入ることで、血管が拡張し、リラックスしやすくなるからです。
そして、リラックスしたときは、副交感神経が活発になりますので、血管がさらに拡張し易くなります。

前述の繰り返しですが、我々は、血液が体のすべての部分で均一に冷やされることで代謝が抑えられて深く寝ることができます。
ですから、このまま血液が冷やされていけば ぐっすり寝られるのですが、電気毛布の温度設定を間違ってしまうと、血液が冷やされずに逆になかなか寝付けないという事態に陥ります。
布団に入った直後に暖かいのは良いことなのですが、その後は、あまり暖かくない方がいいのです。

電気毛布をタイマーで切れるようにしたり、代わりに湯たんぽを用いたりするなどして長時間暖め過ぎないように注意して下さい。

気滞(キタイ)・気虚(キキョ)とは?

歳を重ねると、若い頃に出来た「無理」が段々出来なくなっていきます。
すると、「何で今まで出来たことが出来ないんだ!」と、イライラしてしまい、「体力」で乗り切れない部分を、無理して「気力」で補おうとします。
つまり、体は疲れているのに無意識のうちにテンションを上げて頑張ろうとするのですが、そういう機会が増えていくと、「気力」も疲れて行き、調子が悪くなってしまいます。
この、調子が悪くなった状態を、東洋医学的には「気」の巡りが悪い状態といいます。

「気」の巡りの異常の際には、「気滞(キタイ)」や「気虚(キキョ)」という言葉が使われます。
「気滞(キタイ)」とは、「気」の巡りが悪くなって停滞することで、悶々としたりイライラしたりしてしまっている状態です。
これは、俗に言う「腹の虫の居所が悪い」状態でしょうか?

一方、「気虚(キキョ)」とは、「気」が不足することで、やる気が起きなくなったり落ち込んだりしてしまっている状態を指します。
「気」の流れというのは、目に見えないもの(中には見える人もいる?)なので、中々イメージ出来ないかもしれません。
しかし、東洋医学的には、この「気」の流れと「睡眠」とが深く関係しているのです。

東洋医学的に見る不眠症の原因

「不眠」と一言でいっても、東洋学的にも原因はさまざまです。
その中でも、何かの疾患によるものを除くと、最も一般的なのが、慢性的な「肝臓の疲労」によるものです。
というのも、東洋医学的には肝臓の働きは自律神経系(交感神経と副交感神経)と関連していると考えるからです。

東洋医学的に観る「気の作用」というものが、西洋医学的には「自律神経系の働き」に相当すると考えて良いでしょう。

そう考えると、「気滞(キタイ)」や「気虚(キキョ)」は、「自律神経のコントロールが悪い状態」なのです。

また、「瘀血(オケツ)」による場合も考えられます。
(「瘀血(オケツ)」については「不妊と漢方」の項を参照下さい)

つまり、東洋医学的には、無理し過ぎたり体を冷やしたりする方が不眠になり易いといえるでしょう。

漢方薬の治療方針

西洋医学的な治療法でみなさんがまず思い浮かべるのは「睡眠薬」だと思います。

確かに、軽い不眠症の場合には、睡眠薬の服用が有効なこともあります。
しかし、睡眠薬は、薬の作用で体を無理やり寝かそうとしているだけで、薬の効きめが切れてしまうと、また目が覚めてしまったり、浅い睡眠となったりして疲れがほとんど取れません。
極端にいうと、薬で無理やり気を失わせているだけなので、体は休めていないのです。

前述の通り、不眠の原因の多くは肝臓の疲労によるものなので、酸棗仁湯や抑肝散のような肝臓の働きを助けたり抑えたりするような漢方薬が有効です。
また、瘀血(オケツ)よって寝付けないときには、桂枝茯苓丸や当帰芍薬散のような瘀血(オケツ)を改善させる漢方薬が有効な場合もあります。
その他、「ガンと漢方」の項でも記述しましたが、体力が極端に落ちてくると、寝る体力が体のバランスを維持する体力に回されてしまうので体力不足で不眠となってしまいます。
このような場合は、補中益気湯などの体力を向上させるような漢方薬が効果的です。


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