アトピー性皮膚炎と漢方

「アトピー」って何語?

「アトピー」って日常会話でも自然に受け入れられていますが、よくよく考えてみると何語なのでしょう?

実はギリシャ語の「atopia」が語源で「奇妙な」という意味から来ています。
少し詳しく説明すると、最初の「ア」は「トピー」を否定する接頭語で、「これといって決められない」という意味です。

つまり、アトピー性皮膚炎の意味は「原因をこれといって決められないような奇妙な皮膚炎」ということになります。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、何らかの物質に対してアレルギーをもっています。
「花粉症と漢方」の項でも記述しましたが、抗原抗体反応が病的に過剰反応となってしまった状態をアレルギーといいます。
皮膚や粘膜から血液中やリンパ液中に異物(アレルゲン)が侵入し、それを体が驚異とみなした時、主に肝臓の作用により「抗原抗体反応」が起こります。
その時、異物がバイ菌の住み家になる可能性もあるので、(1)「体力を振り絞って熱を発生させてバイ菌の増殖を防止したり、血管を収縮させないようにしたりする」 や、(2) 「汗をかいて異物を体の外へ押し出す」という反応が起こります。
この反応が病的になると、肝臓に過度の負担がかかり、結果、局所的に熱を帯びた痒みの激しい湿疹が生じてしまうのです。

ちなみに、乳幼児が麻疹や風疹などのウィルスに感染して体に湿疹や発疹が生じるのも、肝臓の働きが未熟なので肝臓にダメージを受けやすいからです。
また、アトピー性皮膚炎には、家族内(親子や兄弟)での発生がみられることなどから遺伝的要因が示唆されますが、具体的な遺伝子異常などは見つかっていません。
加えて、環境の変化によって急激に発疹・痒みの症状が悪化しやすいことなどの理由から、遺伝的要因だけでは説明できないところもあります。

東洋医学的に見るアトピー性皮膚炎の原因

「花粉症と漢方」でも触れましたが、「水毒」の方がアトピー性皮膚炎になり易いことは言うまでもありません。
また、意外に思われるかもしれませんが、慢性的な「冷え」のある方がアトピー性皮膚炎になりやすいのです。
一般的にアトピー性皮膚炎の方は、平熱が高いし、局所的にも皮膚に熱を持っていて、むしろ暑い状態なのに、「冷え」の体質とは、一体どういうことでしょう?

みなさんは寒い時に手掌が暖かくなったり、それが進んで「しもやけ」になったりしたことはありませんか?
体の中で一番温かいのは血液なのですが、人は寒さの厳しい環境に置かれると、体が冷えないようにあまり重要でない部分の血流を抑えて対抗するのです。
我々は、内臓の動きが止まってしまうと、生きることができません。
そのため、内臓が動きやすい体温が維持できるように、心臓から一番遠いところにある手や足が犠牲となり、その部分の血管を収縮させてしまうのです。
次項「不眠症と漢方」で詳しく記述しますが、この血流コントロールには自律神経系が関与しており、東洋医学的には肝臓の働きによると考えます。

この反応は、体全体にとっては理にかなったことなのですが、手足にしてみれば たまったものではありません。
手や足の血流が悪くなれば、そこから先の部分(指先や足先)に酸素や栄養が送れないからです。
だから、手や足といった現場(?)では、体の本部の意向に背いて独自の防御反応を行ないます。
体力を振り絞って、手掌や足の裏に炎症反応を引き起こし、わざと熱を出すのです。
そうすれば、手や足が温められ、その結果、血管が拡張して血流が保たれるからです。

ここで、アトピー性皮膚炎の話に戻ります。 アトピー性皮膚炎の方は、手足だけではなく、体じゅうの至る所で「冷え」による慢性的な「しもやけ状態」が起きていると解釈してもらうと分かっていただけるのではないでしょうか?
つまり、アトピー性皮膚炎による熱の出し方には体力が必要なのです。
ということは、わざわざ体力を振り絞って熱を出して、辛い思いをしているということになり、文字通り「奇妙な皮膚炎」を引き起こしているのです。

漢方薬の治療方針

前述のように、アトピー性皮膚炎の原因は、「慢性的に体が冷え過ぎてしまったことで、却って熱を帯びてしまった状態」と言えます。

ということは、体の根本に「冷え」があるのだから、体を温める漢方薬を処方したくなりますが、使い方を慎重にしないといけません。
急に温まり過ぎると、入浴後や辛い物を食べた時と同じで、却って全身に湿疹が多発してしまう恐れがあるからです。
長期的に見れば、体が温まってくれば、無理に熱を出さなくて良くなるので、体力が温存されるようになり、血液・水分・気の流れが充実することで症状の改善は十分期待できます。
しかし、そのために、生活に支障を来すような痒みに悩まされては、体のダメージは計り知れません。

漢方薬の選択方法としては、まずは黄連や黄柏などを含んだ方剤で炎症を取り去ってから、その後、体を温める方法が効果的です。
矛盾した言い回しになりますが、「(悪い)熱を取り去って、(良い)熱を与える」ということになります。

また、十分な休息をとり、リラックスすることも重要です。
統計をとった訳ではありませんが、当診療所を受診されたアトピー性皮膚炎の患者様のほとんどが、責任感が強く、気配りが行き届き過ぎるくらい真面目な方々です。
自分の体を犠牲にしてまでも、仕事を背負い込んで頑張ってしまうのです。

人は寒い時以外にも、大きなストレスを受けると血管が収縮しますし、また、慢性的な疲れが蓄積すると、筋肉の疲労が溜まり、血行が悪くなります。
すると、「冷え」の症状が進行するので、体は疲れているにもかかわらず、無理して体力を振り絞らなければならないという悪循環にハマってしまうのです。
これには肝臓の働きが関与しているので、抑肝散や黄連解毒湯などの肝臓の働きを改善させる漢方薬が効く場合もあります。

アトピーの症状は体にとって悪いの?

ひどい痒みを伴う湿疹は、その外見からも体にとって悪いものだという錯覚に陥り易いかもしれませんが、はじめに記述した通り、体の防御機構が病的になってしまった状態ということを忘れないで下さい。
体にとって有害な異物を体の外に排除することは、それ自体は体に良いことです。
それが病的になってしまうのが問題なのですが、でも、この症状を完全に抑え込んでしまうというのは、果たして体に善いことなのでしょうか?

何が言いたいかと言うと、「ステロイド療法の意義」についてです。
漢方薬による治療は、病的な状態を落ち着かせることが目的であって、体の防御反応を抑えるものではありません。
一方、ステロイドを用いるということは、すべての異物を体の中に押し込めたまま、体の防御反応を一切禁止してしまうということなのです。
それは、言わば、「臭いものにフタをした状態」みたいなもので、ステロイドをやめた途端に今まで禁止されていた防御反応が再び起こるのは目に見えています。
そういう意味でも、ステロイド療法は、一時的な症状緩和が主体であって、根治術には なり得ません。

ですから、ステロイドは、漢方治療中に生じた我慢できないような痒みや、どうしても避けられない社会的な理由などに対して一時的に使用するに留めた方がいいと思います。

「使ってはいけない」のではなく、「使い方を間違えないで欲しい」のです。

特に、長期連用していたステロイドを急に止めると、激しいリバウンドが起こります。
ステロイドの使用を中止する時は、処方されている病院の医師の指導のもとで徐々に減らしていって下さい。


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