「ひとりじゃないから」


今回は少し長くなります。

先日、とあるテレビ番組を見ていたときのことです。

その番組は、泣ける歌を紹介する内容でした。

その日出演した歌手の中に、盲目の少年がいました。
彼は目が見えないだけでなく、光すら感じない状態で生まれました。

彼が成長するにつれて、彼の苦悩も増大していきます。
「どうして僕は生まれたんだ。」と自暴自棄になったこともありました。

そんな彼が、音楽の世界に興味を持ち、歌手になりたいという夢を持ちました。
そして、ある有名な音楽家と知り合うことがきっかけとなり、
彼は歌手としてデビューすることができました。

その頃、彼は母親に こう言ったそうです。
「僕は目が見えないままに生まれて本当に良かった。」と。

その理由を聞かれると、彼は、目が見えない体に生まれたからこそ、
普通の生活では考えられないような素晴らしい出会いが沢山あったんだと思う。
そう答えました。



だいぶ前の話ですが、僕は、医学生時代の小児科の教授の授業を思い出しました。

その授業の内容は、遺伝子疾患についてでした。
(少し難しいかもしれないので、興味が無ければ8行飛ばして下さい。)

遺伝子疾患とは、遺伝子や染色体の異常が原因となって起こる病気のことをいいます。
ダウン症や筋ジストロフィー、血友病などが含まれます。

遺伝子や染色体の異常は精子と卵子が受精した時に起こります。
つまり、遺伝子疾患のみられる方は、妊娠と同時に疾患が存在することになります。

だから、異常の場所がはっきりと解明されているような疾患(ダウン症など)は、
出生前の検査で その疾患の有無がわかるのです。

しかし、遺伝子疾患の中には、いまだに解明できていないものもあります。
それが遺伝子疾患であると気付いていない疾患もあるでしょう。



こういう授業が続いた後、教授は、ふと雑談のようにお話しました。
(僭越ながら、僕が要約させていただきます。)

遺伝子疾患のお子さんを育てられている親御さんの中には、
「どうして生まれてきたんだ。」と思ってしまう方もおられます。

また、遺伝子疾患に対して引け目を感じ、自分の子供が
劣等な人間であると決めつけてしまう方もおられます。

でも違うんです。

遺伝子の異常、染色体の異常は、実は頻繁に起こっているのです。

我々が性行為をして精子と卵子が受精しても、
生命活動を維持することもできない(妊娠することすらできない)、
名もなき遺伝子疾患はどこの家庭にも起こりうるのです。

妊娠しないからその存在すら気付いてあげられないだけなんです。

そういう名もなき遺伝子疾患が存在するなか、
ダウン症も筋ジストロフィーも血友病も小人症もフェニルケトン尿症も
みな優秀なんです。

生きることができるくらい優秀なんです。

「どうして生まれてきた」のではなく、「よくぞ生まれてきた」のです。

そう思うべきなんです。


みなさんはどう感じられますか?

生きることの喜びを感謝し、
また、生きるための手助けをすることがどんなに幸せなことでしょう。


冒頭の少年の話に戻ります。

彼のハンディキャップを奇妙がり馬鹿にするような人間も沢山いたことでしょう。
でも、そういう人間と同じくらい、彼に手を差し伸べる人間も沢山いたはずです。

人が人を呼びます。

彼は決して不幸ではないはずです。

彼の発言は心の底から湧き出た真の言葉だと思います。

生きる上でハンディキャップを背負った彼、彼女たちが
「生まれてきて良かった」と思えるのが当たり前に感じる社会になれるように、
僕のできる範囲でこれからも頑張っていきたいです。


※(注)彼の病気が遺伝子疾患であるかどうかは分かりません。


2008/10/30更新


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