不妊と漢方
不妊の定義
不妊(症)の定義は極めて曖昧なものです。
WHOによる定義では「避妊なしで性生活をしているにも係わらず、2年以内に妊娠に至れない状態」となっています。
ただし、これはあくまでも統計的な側面からの定義であって、不妊で悩まれている方すべてに当てはまるものではありません。
不妊の原因
以前ほどではありませんが、不妊の原因は女性側だけに問題があると思っている人が現在でもまだいます。
もちろんこれは間違いで、男性に問題がある場合や男女双方にある場合もあります。
また、妊娠しても「流産・早産・死産」を繰り返して子供が生まれない場合もあります。
いずれの場合にせよ、まずは専門医療機関での検査が重要かと思います。
「不妊の原因」が体の器質的な異常(例えば、女性側の卵管の通過障害や、男性側の精管の閉塞など)であれば、外科的手技により問題が解決できる可能性があるからです。
また、不妊の原因は身体的なものだけとは限らず、心身ストレスなどが原因となる場合もあります。
瘀血(オケツ)とは?
少し脱線してしまいますが、これは重要なお話です。
東洋医学では、「血液の巡り」「水分の巡り」「気の巡り」を重要視しますが、今回は、「血液の巡り」に着目します。 ゆっくりであっても血液が常に流れている状態であれば、酸素も栄養も豊富なサラサラの血液が全身に流れます。 しかし、血液の流れが悪くなると、血液は固まり易くなり、ドロドロした血液が血管内で常に渋滞しているような状態になってしまいます。
この状態を特に東洋医学では瘀血(オケツ)の状態といい、瘀血があると酸素や栄養が全身に巡りにくくなるのです。 慢性的に体を冷やしてしまったり、無理なダイエットによって筋肉量が低下したりすると、血流障害が起こり、瘀血が生じ易くなります。
東洋医学的に見る不妊の原因
まずは、女性側の原因について考えてみましょう。
前述の瘀血(オケツ)の状態を子宮や卵巣に限って見てみると、瘀血により排卵障害や生理不順・生理痛などが生じやすくなり、卵子の生成にも影響します。
そして、さらに瘀血が進むと子宮筋腫や子宮内膜症などの病気を引き起こすこともあります。
あなたは、生理の周期がまちまちであったり、生理痛がひどく、下り物にレバー状のドス黒い血の塊が混ざったりしてはいませんか?
元気な卵子を定期的に造ることができないと精子が来ても受精できないことがあります。
また、瘀血のせいで子宮の栄養状態が悪いと、せっかく受精できたとしても受精卵が子宮に上手く着床できず、流産・早産・死産を繰り返してしまうこともあります。
次に、男性側の原因について考えてみましょう。
何といっても一番多いのは、精子が造られない、あるいは精子の運動能力が弱くて受精できないということです。
その原因としては、女性の場合と比べると、ストレス・疲労によることが一番に挙げられます。
漢方薬の治療方針
専門医療機関の検査で器質的な異常が無いことが証明できたら、満を持して、東洋医学の出番です。
女性の場合、桂枝茯苓丸や当帰芍薬散などといった、瘀血(オケツ)を改善させる漢方薬が第一選択となる場合が多いです。
あるいは、冷えの症状を改善させるために人参を用いた漢方製剤を処方することもあります。
また、男性の場合、六君子湯や補中益気湯などといった、ストレスによる疲れを改善させるような漢方薬が第一選択となる場合が多いです。
当診療所の不妊(特に女性の方)に対する治療方針は、はじめにエキス剤を用いて冷えや瘀血を改善させ、体力がついてきたら鹿茸(ロクジョウ)などを用いた煎じ薬で仕上げるといった具合です。
東洋医学的治療(漢方の治療)の利点
現代医療において、不妊治療の技術は素晴らしく発達しています。不妊治療のために当診療所を受診された患者様の多くは、少なくとも一度は西洋医学的な不妊治療を経験しています。
では何故、西洋医学的な治療で効果の無かった方が、東洋医学的な治療で上手くいくのでしょうか?
体外受精など人工的に行なわれる授精は、自然妊娠よりも妊娠の可能性は高くなりますが、残念なことに、流産しやすいといわれています。
これは、前述の通り、子宮の血流が悪く受精卵が上手く着床できないことが原因でしょう。
不妊が男性側(精子)の原因であれば、人工的にでも授精することが出来れば妊娠の継続が望めます。
しかし、女性側の原因の場合、受精してから先のことも治療しなければならないのです。
不妊で妊娠を希望される方のほとんどが、早く結果を得たいと思っているでしょう。
しかし、母体の準備が出来ていない状態で妊娠をスタートさせることは非常に危険なことです。
結果的に無事に出産することが出来たとしても、妊娠中の「つわり」がひどかったり、胎児の母体内での発育が悪かったりする危険があるからです。
もし西洋医学的な不妊治療を望んだとしても、着実に体の具合を改善させ、体力をつけてから臨まれた方が良い結果を生み出せるでしょう。
決して焦らないで下さい。どうか漢方薬の力を信じて下さい。
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